Hayashi, 2014
Ryota Hayashi (2014) Past biodiversity: Historical Japanese illustrations document the distribution of whales and their epibiotic barnacles. Ecological Indicators, 45, 687-691.
江戸時代の本草学者たちが残した資料に描かれた生物たちに注目した研究です。これまで人文学資料としか見られていなかった本草学の資料を、生物多様性分野に応用しようという学際的な研究です。
もともと、薬として役に立つ植物学を中心に発達してきた本草学ですが、江戸時代後期にはその対象は役に立つ植物だけでなく、さまざまな動物や妖怪にまでもその範囲を広げていました。本研究では、その中でも特に鯨類とそれに付着するフジツボ類(オニフジツボ)の記録に注目し、過去と現在のフジツボ類の付着状況の変化について言及しています。
本草学資料の記録には、オニフジツボはザトウクジラとセミクジラに付着するという記録がある一方、現在ではザトウクジラにしか見られません。セミクジラが特に捕獲されやすく捕鯨の対象となって激減したことが影響しているのではないか、と議論したものです。
過去にどのような生態系があったのか、タイムマシンを開発しえていない我々は正確に知る術はありません。しかし、このように昔の人が残してくれた記録を紐解くことで、過去の生物多様性情報を復元できるのではないか、と考えています。
本研究の成果は、朝日新聞、読売新聞、長崎テレビ、NHKBSプレミアムなど、複数のメディアでも取り上げていただきました。
このような研究はこれまで類例がなく、論文を投稿しても多くの学術誌で査読に回されることもなくリジェクトされましたが、最終的に生態学の専門誌であるEcological Indicators誌に掲載できたことをとてもうれしく思っています。
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