Hayashi & Chan, 2015

Ryota Hayashi, Benny K.K. Chan (2015) New records and redescription of the Tetraclitid barnacle Tesseropora alba (Cirripedia: Thoracica: Tetraclitoidea) in the Pacific waters of Taiwan and Okinawa. Species Diversity, 20(2), 183-189.

運動不足を危惧した博士課程の2006年冬、那覇マラソンの出場を目的として沖縄を再訪しました。およそ4時間半という記録で筋肉痛以外のさしたる負傷もなく完走できたのですが、せっかく沖縄に来たのだからと滞在を数日伸ばし、本島各地で友人と楽しい日々を過ごしておりました。そのようなある日、宜野座村漢那川河口の砂浜でビーチコーミングをしていると、フジツボがたくさん付着した漂着ブイを琉大同級生の中村智映くんが見つけてくれました。水面上にはクロフジツボとイワフジツボが、水面下にはアカフジツボ類が、と見事な帯状分布を示すこのブイは素晴らしい、とバシャバシャ写真を撮影し、なんだか白くて小さなフジツボも見られましたが「これはよくわからんしまぁいいや」とその場では特に気にも留めずフジツボも採れるだけ採ってエタノールに保存しました。 それから数年、そんな標本を採集したこともすっかり忘れた2010年、台湾のフジツボ研究者Benny Chan博士が沖縄に遊びに来ました。そのときに面白い標本があるよ、と件のブイ付着フジツボの入った標本ビンを思い出しました。だいたい同定できたんだけど、この白くて小さいのだけは4枚殻のsingle tubeだしよくわからないんだよね、と振ったところ、「これは僕も見たことがない、Tesseropora属の未記載種ではないか」とのコメントが返ってきました。未記載、つまり新種の可能性があるということです。カメフジツボ類でないのは残念ですが、ついに僕にも筆頭で新種の命名者となるチャンスが訪れたか、とその場でBenny博士との共同研究ということで論文を書き進めようと約束し盛り上がります。このフジツボブイを見つけてくれた友人に献名してナカムラフジツボにしてやろう、とタイプ標本シリーズを作り標本を撮影しスケッチを進めました。さぁ新種記載論文として投稿しよう!と完成した原稿をBenny博士に送ると、

「ゴメン、これ1979年に中国の紀要の中で記載されてたわ」

と文献が送られてきました。その名もTesseropora alba。西沙諸島で発見されたこの文献に描かれているフジツボの姿は今まさに目の前にある標本の姿と見事に一致してしまい、新種記載は水泡に帰してしまったのです。ただ、その後このTesseropora albaは誰にも発見・言及されていないことがわかりました。それもそのはず、この新種記載論文は中国語で、英語による情報がほとんどなかったのです。そこで、新種として書き進めてきた形態の記載を既知種の再記載という形式に改訂し、これまでに記載されたTesseropora属各種の分布と化石記録および形態をまとめ、より詳細な形態の記載を進めることと新たな産地の報告ということで論文としての新規性を述べて投稿したのでした。

また、ブイから採集された標本の殻の中からは遊泳脚の未発達なノープリウス幼生が確認されました。親個体の殻内でノープリウス幼生が成長するフジツボ類の多くは特殊な環境に付着することが知られています。Tesseropora albaはアカフジツボ属(Megabalanus)の外殻に付着するものばかりで、岩礁などに直接付着することはありませんでした。このように限られた環境に選択的に付着するためこのように特異的な幼生期を持つと考えられます。ちなみに、このフジツボはShuto & Hayashi 2013で沖縄の漂流浮き漁礁から採集したものの、乾燥したカピカピの標本しか得られなかったためTesseropora sp.と種レベルの同定までしなかったものと同じものです。

残念ながら新種として命名することはできませんでしたが、調査のつもりも何もなくたまたまビーチコーミングで遊んでいたときに見つけた標本からでも論文として書き上げることができたということで、自分の論文執筆能力もそう捨てたもんでもないではないか、と思えるようになった印象深い論文です。

この研究は一緒に遊んでいた同級生の中村智映くんが見つけてくれた標本を元に進めたものです。改めてここに感謝の意を表します。


Cited by 1 paper (at 2017/1/23):

  1. Pochai A, Kingtong S, Sukparangsi W, Khachonpisitsak S (2017) The diversity of acorn barnacles (Cirripedia, Balanomorpha) across Thailand's coasts: The Andaman Sea and the Gulf of Thailand. Zoosystematics and Evolution, 93(1), 13-34.
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