Hayashi & Yasuda, 2022
Ryota Hayashi, Yoko Yasuda (2022) Past biodiversity: Japanese historical monographs document the trans-Pacific migration of the black turtle, Chelonia mydas agassizii. Ecological Research, 37(1), 151-155.
本草学資料を用いた研究の第3弾です。この研究では、日本近海でもよく見られるアオウミガメの亜種として知られるクロウミガメについて、本草学資料から記録を調べました。
クロウミガメは東太平洋に生息し、日本近海ではほとんど見られません。しかし、高木春山の『本草図説』に、「異亀」と書かれたアオウミガメに似ているようだけど、アオウミガメとは別のカメとして描かれているものを発見しました。この記録によれば、現在の茨城県伊師浜で漁師が捕獲したものがこの「異亀」であるとのことでした。このオリジナルは佐藤中陵による「山海庶品」であることが春山の記述に残っているのですが、残念ながら佐藤中陵の「山海庶品」は江戸時代後期の火災でそのほとんどが焼失しており、一部が水戸市立図書館に残っているのみです。この記録を確認したのですが、「異亀」の原図は残っていませんでした。
クロウミガメは、1990年代に沖縄県で発見されたのを皮切りにこれまで20~30例ほど日本での漂着が知られています。近年の海洋環境の変化で東太平洋に生息するクロウミガメが日本にも流れてくるようになってしまったのではないか、などと言われることもあるようですが、本事例のように江戸時代にもクロウミガメの漂着記録は残されています。これまでもクロウミガメは日本にときどき来ていたけど、それに気づく人がいなかったのではないかと考えています。
このように、過去の資料を丁寧に調べていくことで、現在知られている生物の行動の新たな一面が見えることがあるかもしれません。
Cited by 2 papers (at 2024/12/24)
- Hayashi R (2021) Past biodiversity: Japanese historical monographs document the epibiotic barnacles and cold-stunning event of the hawksbill turtle Eretmochelys imbricata. Frontiers in Ecology and Evolution, doi: 10.3389/fevo.2021.734415
- Мильто ГКД, Маслова ИВ, Стефанов СЮ (2024) ПЕРВАЯ ВСТРЕЧА БИССЫ (ERETMOCHELYS IMBRICATA) И ДРУГИЕ НАХОДКИ МОРСКИХ ЧЕРЕПАХ НА РОССИЙСКОМ ДАЛЬНЕМ ВОСТОКЕ. ЗООЛОГИЧЕСКИЙ ЖУРНАЛ, 103(10), 72–79. [Milto KD, Maslova IV, Stefanov SY (2024) The hawksbill turtle (Eretmochelys imbricata) in the Russian Far East and other new sea turtle records. Zoological Journal, 103(10), 72–79.]