Hayashi, 2013b
Ryota Hayashi (2013) Intraspecific variation in the turtle barnacle, Cylindrolepas sinica Ren, 1980 (Cirripedia: Thoracica: Coronuloidea) with brief notes on the habitat selectivity. ZooKeys, 327, 35-42.
アオウミガメ・タイマイには多く見られるもののアカウミガメにはほとんど付かないツツフジツボ Cylindrolepas sinica の形態変異に関する論文です。
これは卒論でカメフジツボの調査を始めて数ヶ月経過した頃に気付いた内容です。アオウミガメの腹甲に、なんだか六角形のかっこいいフジツボが潜り込んでいるのです。当時はフジツボのことを何も知らなかったので「六角形のかっこいいのがいるなぁ」という程度で特にこのフジツボについて追求することはありませんでした。その後博士課程に進学し、Scripps海洋研究所の標本庫で調査させていただいた際に、フジツボ分類学の大家 William A. Newman先生に標本を見せると「新種ではないか?」とのコメントをいただきました。それから新種記載論文として少しずつ準備を進めていたのですが、フジツボの殻だけでなく軟体部の観察、またDNAの抽出などを行い観察を続けた結果、これは新種ではなく既知種 ツツフジツボ Cylindrolepas sinica の付着部位による形態変異であることが明らかになりました。
Hayashi (2009)で報告したように、ツツフジツボはアオウミガメ・タイマイによく付着する一方、アカウミガメの付着例は極めて限られています。周年沿岸域にいることが確認されたアカウミガメにツツフジツボが付着していたことから、ツツフジツボの付着はウミガメの種によって左右されるのではなく、ウミガメの種を問わず沿岸域に滞在しているウミガメ個体へ付着するのではないか、という行動指標としての可能性を指摘しました。今回、本研究でもツツフジツボのアカウミガメへの2例目の付着を確認しました。この個体もやはり沿岸域で複数回捕獲されており、Hayashi (2009)の仮説に一つ状況証拠が重ねられたものと言えます。
また、個体識別用プラスチックタグへの付着例も確認されました。ツツフジツボは普通、ウミガメの皮膚に埋没するようにして付着するのですが、ウミガメ以外のプラスチックのような基質でも付着できることが明らかになりました。
ウミガメに付着するフジツボではありませんが、クジラに特有に付着するオニフジツボ Coronula diadema の幼生は、クジラ由来のケミカルシグナルを感知して着底し始めることが報告されています(Nogata & Matsumura, 2006)。その着底基質はクジラの肉片でなくても構わず、その研究ではシャーレに付着したそうです。ツツフジツボとクジラに付着するフジツボ類は非常に近縁な種です(Hayashi et al., 2013)。今回の発見から、このツツフジツボもオニフジツボ幼生と同様、ウミガメ由来のケミカルシグナルに反応しさえすれば、基質を問わず着底することが推察されます。一方で、ウミガメに付着する中で最も大型かつ有名なカメフジツボ Chelonibia testudinaria は普通に人工海水で飼育・繁殖可能で、特にウミガメの肉片など入れなくても勝手にビーカーやシャーレに付着することが報告されています(Zardus & Hadfield, 2004)。フジツボの生活史の中でケミカルシグナルへの反応がどの段階で獲得された形質なのか、フジツボの進化史を探る上でも面白い発見であると考えています。僕の調査ではこれまで、採集してすぐにその場でエタノール固定してばかりで飼育実験などを通した研究はしたことがありません。今後はこれらの奇妙な生活史を持つフジツボ類の飼育実験を通した生活史の解明も研究テーマの一つとして取り上げていきたいと思っています。
Cited by 3 papers (at 2022/11/23):
- Pinou T, Domènech F, Lazo-Wasem EA, Majewska R, Pfaller JB, Zardus JD, Robinson NJ (2019) Standardizing sea turtle epibiont sampling: outcomes of the Epibiont Workshop at the 37th International Sea Turtle Symposium. Marine Turtle Newsletter, 157, 22-32.
- Zardus JD (2021) A global synthesis of the correspondence between epizoic barnacles and their sea turtle hosts. Integrative Organismal Biology, 3(1), obab002. doi.org/10.1093/iob/obab002
- Zonneveld J-P, Zonneveld ZEE, Bartels WS, Gingras MK, Head J (2022) Bone modification features resulting from barnacle attachment on the bones of loggerhead sea turtles (Caretta caretta), Cumberland Island, Georgia, USA: implications for the paleoecological, and taphonomic analyses of fossil sea turtles. Palaios, 37(11), 650-670. doi: https://doi.org/10.2110/palo.2022.021