Hayashi, 2026
Ryota Hayashi* (2026) A 'fish finder' for birds? Route-dependent foraging behavior of the brown booby (Sula leucogaster) following a passenger ferry in the Ogasawara Islands, Japan. PeerJ, 14, e21093 https://doi.org/10.7717/peerj.21093小笠原母島に移動するために ははじま丸に乗船中、あまりにやることがなさすぎて始めたヒマつぶしのカツオドリ観察の記録です。
10年ほど前、外来植物対策のためにひたすらギンネムを引っこ抜くという肉体労働業務で小笠原母島に行く機会がありました。母島に向かうにはまずおがさわら丸で24時間、さらにははじま丸で2時間の乗船時間が必要です。おがさわら丸の24時間で寝倒してしまい、眠気もなくただただヒマなははじま丸の2時間のヒマつぶしに始めた観察記録です。
やることなくははじま丸の甲板でぼーっとしていると、船に随伴してくるカツオドリが複数いることに気づきます。

漁船でもなくおこぼれが期待できるわけでもない定期航路船になんでまたついてくるのか、と不思議に思い観察していると、ははじま丸が走って水面近くのトビウオを驚かせることで魚が水面上に飛び出し、それを狙って採餌ダイブしているのがわかりました。そこで、手元のスマホのランニングアプリを起動し、ははじま丸の航路を記録しつつ、毎分何羽随伴しているか、毎分何回採餌ダイブをしているかを記録しました。
記録をまとめてみると、父島発の行きの便では航路の半分くらいを過ぎてからカツオドリが増えてくるのに対し、母島発の帰りの便では出港からカツオドリが随伴してくるのがわかりました。また、4月と8月に記録をとったのですが、8月の方が行き帰りともに個体数が多かったこともわかりました。これは、父島よりも、無人島・岩が多い母島周辺でカツオドリがたくさん営巣していること、また、8月は育雛期のピークに近く、より多く採餌する必要があるためと考えられます。
カツオドリの和名についてですが、もともとカツオが水面下からイワシを刺激して鳥山を作り、その鳥山からカツオの位置を推測し古典的な魚探として漁業に活かしたことからカツオドリという和名がついたものとされています。一方で、今ではカツオドリの方が人間活動を魚探として活用しているという role reversal が起きているとも言えそうです。
まずは観察記録を論文にしただけですが、この記録はさらなる疑問を生みます。野生生物の鳥としては早朝・夕方に採餌するものだと思います。一方で、ははじま丸の航行は真昼間のドピーカンの時間帯であり、野生動物としては休息時間ではないかということです。この、ははじま丸を用いた採餌行動は、野生生物としての採餌競争に負けた劣位個体が仕方なくやっていることなのだろうか?それとも、より効率のいい採餌として頭のいい個体だけがやっていることなのだろうか?さらに、僕が観察した限りでは、航行中随伴する個体数は最大でも10羽程度であり、それほど多くはありません。この、効率がいい(?)採餌行動は、どのように学習・伝播するのだろうか?親子で学習するのか、それとも他の個体を見てマネしているのか?サルのイモ洗い行動のように、動物の認知能力、いわゆる Animal Cognition と呼ばれる分野でも面白い観察例なのではないかと思い、観察結果をまとめたものです。
とりあえず手元にあるもので観察するだけでもこれだけのことがわかりそうです。バイオロギングの機材、たとえばGPSや加速度ロガーなどをカツオドリに付ければ、採餌に成功すれば魚を飲み込むために首を振るでしょうし、採餌の成功率もわかるかもしれません。この誰でもできる観察記録をベースに、バイオロギング技術を用いてははじま丸に随伴する個体とそうでない個体の行動を比較すれば、将来的にどちらの採餌戦略がより効率的なのか、わかるようになるかもしれません。
今回の論文では2往復分の記録しかありませんが、実際にやっていることはペンと野帳と時計さえあれば誰でもできる簡単な調査です。掲載誌のPeerJでは、supplementary fileとしてカツオドリ行動調査用の野帳をPDFで付けています。https://dfzljdn9uc3pi.cloudfront.net/2026/21093/1/fieldnote_template_boobies_130343_21093_StaffFileAS.pdf
↑両面印刷で1枚に収まるようになっています。
市民科学では、たとえば環境DNAのサンプル収集のような、研究者主導のトップダウン型市民科学研究と、市民が勝手に行うボトムアップ型市民科学研究があると思います(たとえば小学生のカブトムシ研究とか)。多くの方の観察記録が蓄積されれば、野生動物の生態解明に資するボトムアップ型の市民科学テーマに育つのではないかと期待しているところです。もし小笠原母島を訪れる機会があれば、是非行き帰りにカツオドリの観察をしてみてください。
Not cited (at 2026/5/9)
20260509 朝日新聞でHayashi 2026の内容を記事としてとりあげていただきました。
『人に魚の群れ教えた鳥、逆に人を利用し狩り 船上の暇つぶしから発見 』
