Hayashi, 2026b
Ryota Hayashi* (accepted) Turtle barnacle in the Plastisphere: an unusual attachment of Chelonibia testudinaria to marine plastic debris. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom, accepted.
昨年末、妻と息子が見つけてくれた「プラスチックごみに付着したカメフジツボ」の記録です。
カメフジツボ Chelonibia testudinaria は、その名の通り通常はウミガメなどの海洋脊椎動物に付着するフジツボです。遺伝的には、ガザミに付着するガザミフジツボ (Chelonibia patula) やマナティに付着するマナティフジツボ (Chelonibia manati) と明瞭に区別できないことが知られていますが (Cheang et al., 2013; Zardus et al., 2014)、形態的には典型的な「カメフジツボ型」の個体が、漂流プラスチックに付着していた例はこれまでありませんでした。もちろん、「フジツボがプラスチックについていた」というだけなら、それほど大きなニュースではありません。実際、C. patula の名前であれば、1960年代と1990年代に漂流プラスチックへの付着が報告されています。
今回興味深いのは、その背景です。
人新世と呼ばれる現代では、海洋にはかつて存在しなかった大量のプラスチックごみが漂流しています。これは地球史的に見れば、ごく最近になって突然現れた巨大な人工環境です。一方、ウミガメやクジラなどに特異的に付着するオニフジツボ超科の仲間は、分岐年代推定や化石記録から、およそ3000~4000万年前に出現した単一の祖先から進化したグループだと考えられています (Hayashi et al., 2013)。もし現在、こうした宿主特異的なフジツボが人工基質にも着底する機会を増やしているとすれば、それは人新世が生み出した新しい環境に適応し始めた最初期の姿なのかもしれません。もちろん、今回の論文でそこまで主張しているわけではありません。しかし、「進化の入り口」をたまたま目撃している可能性があるとも考えられます。
この標本を見つけたのは、研究者ではありませんでした。2025年12月27日、保育園も妻の職場も冬休みに入っていたため、家族3人でアカウミガメのストランディング調査に参加していました。私は解剖後の個体を埋設するための穴を掘っていたのですが、その間、ヒマを持て余した二人が浜をウロウロして遊んでいる中で見つけてくれたものです。

「これ、カメフジツボじゃない?」

そう妻が気付き、息子が持ってきてくれたのが今回の海洋ゴミに付着したカメフジツボ標本です。もし見落としていたら、おそらくそのまま海岸のごみとして放置・処分されていたでしょう。自然史研究は、必ずしも最先端の機材や大きな研究費だけで成り立つものではありません。海岸を歩き、「何かおかしい」と気付く目が、新しい発見につながることがあります。今回の論文は、そのことを改めて実感させてくれた一例でした。

プラスチックに付着していたカメフジツボ Chelonibia testudinaria
(国立科学博物館収蔵標本 NMNS-Cr-33588)
Not cited (at 2026/7/9)
