Hayashi & Shuto, 2026

Ryota Hayashi*, Takuho Shuto (2026) Molecular and morphological records of two Amphibalanus barnacles associated with floating marine debris in the western Pacific. Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom, 106, e61.


2006年12月、博士課程2年の冬、NAHAマラソン参戦のため沖縄にいました。4時間半でのフルマラソン完走後、筋肉痛で動きが制限される中でもヒマだったので、琉大の同級生と一緒にビーチコーミングをしておりました。そんな中で見つけた漂着ゴミに、フジツボがたくさん付いておりました。

これは、と思いとりあえずエタノールに漬けて保存し、十数年そんな標本の存在もすっかり忘れていたのですが、部屋の片づけをしていたらひさしぶりに発掘され、中身を改めてみたところ、1989年に珠江デルタ周辺で新種として記載されて以来ほとんど報告のない超マイナーフジツボ2種 Amphibalanus pulchellusAmphibalanus zhujiangensis  が含まれていることがわかりました。

Amphibalanus zhujiangensis は外来フジツボとして既にいくつか報告され 以前からズージャンフジツボという標準和名が与えられていましたが、Amphibalanus pulchellus は今回が国内での初記録となるため、和名がありませんでした。そこで、上から見たところが和傘に似ていることから「ワガサフジツボ」を標準和名として提唱しました。

一方で、ワガサフジツボは本当に報告例が少なすぎて外来かどうかすら定かではありません(ズージャンフジツボも報告例が少なすぎて、もともといたけど気付かれなかっただけの在来種なのではないかとも考えています)。この報告では、この2種について ミトコンドリアDNA COI遺伝子と核DNA Histone 3遺伝子の塩基配列を決定しました。これまでワガサフジツボ A. pulchellus について参照可能なDNA配列情報はなく、本研究によって初めて比較可能な分子データが得られました。また、Amphibalanus属 タテジマフジツボ類の公開されている塩基配列と合わせて系統解析をした結果、この2種のフジツボが非常に近縁であることも示されています。20年前に何気なく採集して保存していた標本が、現在になって、このほとんど研究されていないフジツボ類の分類・系統・生物地理を考えるための基準データとなりました。

さらに興味深いのは、この2種が「どこにいるのか」という問題です。一般的な Amphibalanus 属のフジツボ、タテジマフジツボ類は港湾や岩礁などで普通に見つかります。しかし、ワガサフジツボ A. pulchellus と ズージャンフジツボ A. zhujiangensis の記録を調べてみると、漂流ブイや船底など、浮遊する人工物との関係が目立ちます。今回の個体も、台風後に沖縄へ漂着したブイから発見されました。長年海岸を観察していても、少なくとも日本沿岸ではこれらの種が普通の潮間帯に定着している様子は確認できません。

では、これらはどこから来たのでしょうか。外来種として移入されたものなのか、もともと西太平洋に広く分布していたにもかかわらず見落とされてきた在来種なのか、それとも漂流物を利用しながら広域を移動するため、通常の沿岸生物調査ではなかなか発見されない種なのか。現時点では、記録そのものが少なすぎるため明確な答えを出すことができません。

海洋プラスチックをはじめとする漂流ごみは、海洋環境上の大きな問題です。しかし生物学的に見ると、それらは単なる「ゴミ」ではありません。長期間海面を漂流する人工物は、フジツボをはじめとする付着生物に新しい生息基盤を提供すると同時に、それらを遠くまで運ぶ「乗り物」にもなります。近年、プラスチック表面に成立する生物群集は plastisphere(プラスチスフィア) と呼ばれ、その生態学的重要性が注目されています。今回の研究から、漂着した人工物を詳しく調べることは、外来種の移動を把握するだけでなく、通常の生物調査ではほとんど見つからない「忘れられた種」を発見する手段にもなると考えています。最近公開された別の研究では、本来はウミガメ類に付着するはずの カメフジツボ Chelonibia testudinaria が海洋プラスチックに付着している例も報告されました (Hayashi, 2026b)。海岸に流れ着いたブイやプラスチック片は、一見すると単なる漂着ゴミです。しかし、その表面にはそれまでどこにいたのか、どのように海を移動してきたのか分からない生物が残されていることがあります。漂着物はゴミであると同時に、海を移動する生物の記録媒体でもある。今回の研究は、約20年前に拾って保存しておいた一つの漂着ブイから、そのことを改めて示した研究となりました。

ちなみに、このブイには Tesseropora alba という同じくほとんど記録のなかったフジツボが発見され、2015年に報告しています (Hayashi & Chan, 2015)。これまで見過ごされがちだった海洋漂着ゴミが、これらの付着生物の新たな分布拡散ルートとなっているのではないかと考えられます。今後は、海洋ゴミの処理だけでなく、こうした付着生物相のモニタリングも重要になると考えています。

この研究は一緒にビーチコーミングで遊んでいた琉大同級生の中村智映くんが見つけてくれた標本を元に進めたものです。改めてここに感謝の意を表します。


Not cited (at 2026/8/13) 

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